主人公

 よく分からない人を食ったような会話を、禅問答のようだと言います。
この「主人公」の話も、随分変な話です。
毎日ぶつぶつ自分に話しかけ、自分で返事をする。
このお坊さん、ちょっと呆けてしまったのかなと思ってしまいますが、そうではないのですね。
いたって正気で、大変な高僧であったようです。
このお坊さんは自分に呼びかけることによって、自分をしっかり見つめようとしたのでしょう。
自分を見つめ、本来の姿を確かめると言うこと。
これはまさに禅の基本です。
日常生活の中では、まわりの動きに振り回されてつい自分を見失いがち。
自分自身をしっかり見つめる機会というのは日常の中にはあまりありません。
動かずに、じっと自分と対峙する。
これが坐禅です。
私達のお宗派では、坐禅をする時、面壁といって壁に向かって坐ります。
かの有名な達磨様は9年間も壁に向かって坐っていたと言われます。
壁に向かうというのは、自分と向き合うと言うこと。
自己を見つめると言うこと。
ただじっと坐って自分を見つめる。
簡単そうですが、なかなか難しいことです。

人間は動物です。
動物という字は動く物と書きます。
本来動いているのが、自然な姿。
それを、寝ているわけでもないのに、わざと身体を静止させる。
身体の動きを止め、心の動きを止める。
動いていると分からなかったものが、動きを止めることによって見えてきます。
動いているのも自分。
動きを止めるのも自分。
そしてそれを見つめているのも自分。
それら全てが自分です。
坐禅をしていると、だんだんとこれらの多くの自分が一つの自分にまとまってきます。
自分が自分と一つになる。
気持ちの良い体験です。

人生の主人公は自分自身。
ついつい、あっちやこっちに散らばってしまいがちな自分をしっかりつかまえ、
しっかり人生の主人公でありたいものです。

住職合掌

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