焚くほどは風がもてくる落葉かな

 「焚くほどは風がもてくる落葉かな」
この句には逸話があります。
ある時、近くの藩のお殿様が新潟に来られた際、良寛さんのことを知り、ぜひ自分の城下の寺の住職になって藩政を支えて欲しいと懇請されたことがありました。
シンプルライフの良寛さんは、この申し出を断られたのですが、その時このお殿様に送ったのが、この句であったということです。
良寛さんの住んでいたのは、五合庵(ごごうあん)という粗末な草庵です。
私も以前新潟に行った際、この五合庵(現在のものは大正時代に再建されたものだそうです)を見に行ったことがありますが、誠に簡素きわまりない造りで、三坪位の建物で中に部屋が一つ、厠(かわや)も竈(かまど)もどこにあるのかな?というくらいシンプルな建物でした。
余計な物を一切切り捨てて、究極のシンプルライフを送っていた良寛さんには、藩政に関わって、大寺の住職になることなどまったく思いもよらない事だったのだと思います。
以前、清貧の思想という本が話題になったことがありました。
良寛さんの生活は正にこの清貧そのもの。
清らかであり、貧しいと言えば確かに物質的には貧しいけれども、心の中は充分に豊かであり、満ち足り、むしろ余裕がある。

良寛さんの時代から比べれば、今は物質的には比べものにならない位便利で豊かになっています。
でも、そこに生きる人間の心は昔も今も何も変わっていません。
人間の欲望にはキリがありません。
一つを得れば、次の一つが欲しくなる。
どこまでも続きます。
人間はものやお金があればそれだけで幸せと言うことはない。
「この今の生活がすごく幸せ」と思えれば、持っている物やお金の多寡は関係ないのです。
良寛さんは、五合庵で生活し、幸せだった(俗な言い方で良寛さんに失礼かもしれませんが)と思います。
足るを知る心を持ってさえいれば、人間結構どんな状況でも幸せに暮らすことができるのではないでしょうか。
幸せとははあくまで主観的なもので、客観的にどうこう言えるものではありません。

今、日本は不況です。
バブルがはじけ、リーマンショックがあり、国はとてつもない借金を抱え、某島の領有権の問題も最近なにやら不穏です。
正に内憂外患。
日本はこの先どうなるのか、不安だらけです。
でも、日本の歴史を振り返ってみれば、戦争や飢餓や疫病や今より大変な時代の方が多かったように感じます。
そして現在の世界を見回せば、どうひいき目に見ても日本は物質的に恵まれ、政治的には安定した国です。
この日本で私達は今生きています。
周りにぶつぶつ文句を言うのでなく、私はどう生きるのか?どう生きたいのか?
自問し、自答し、自分自身の確かな幸せを自ら作って行かなければなりません。
幸せは自分で作り出すものだと思います。
住職記

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