トイレの神様

 昔は歌謡曲というとそのほとんどは男女の恋愛をテーマにしていたように思います。
それに比べると最近巷で流行る歌は、男女の恋愛だけでなく社会的なテーマやあるいは逆に非常に個人的なことをテーマにした物が多いように感じます。
この「トイレの神様」という歌も、「トイレを綺麗に掃除しなさいね、そうするとトイレの女神様みたいに綺麗になれるよ」と良く言っていた祖母への追想を歌ったものです。
内容は非常に個人的でありながら、同時に社会的なメッセージを控えめに表出している感じを受けます。
昭和の時代にもこの種の歌はあったかも知れませんが、社会で評判になるほど流行るということはなかったように思います。
この「トイレの神様」という歌では、はっきりした価値基準を持ち毅然としていてかつ優しい古き良き日本的人格への憧憬が感じられます。
今、平成の世。
混迷の中にあります。
何が良く、何が悪いのか…判断の基準をどこにおいたらいいのか、あやふやなまま日々が流れ、世の中もなんとなく時間の流れとともに動いていく。
こんな世の中だからこそ、この歌に出てくるおばあちゃんのようなしっかりと地面に足をつけてまっすぐに生きている人に私達は惹かれるのではないでしょうか。
それがゆえ、この変わった題名の歌がヒットしたのだと私は思います。

さて、お寺のトイレの神様は、烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)といいます。
もとは、インドの火の神様ですが、日本の禅宗のお寺では東司(とうす:禅宗のお寺ではトイレのことをこう呼びます)の神様として祀られています。
曹洞宗において東司、坐禅堂、浴室の三つは三黙道場(さんもくどうじょう)といって特に大切な修行の場です。
年に2回あるそれぞれ3ヶ月ほどの集中修行期間では首座(しゅそ)と呼ばれる修行僧のリーダーが東司掃除の係。
毎日綺麗に東司掃除を行います。
それだけトイレの掃除は大切だと言うことです。
汚れ易い所(トイレ)を特に気をつけて、いつも綺麗にするように心がける。
この心がけと行為によって、それを行う人の心も同時に綺麗になってゆきます。
心が綺麗になると、見た目もそれにつれて次第に綺麗に(女性の場合はべっぴんさんに)なってゆくのではないでしょうか。
トイレの掃除をせっせと行い、心をみがき、ぜひ内も外も綺麗な人になって頂きたいと思います。
住職記

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