三黙道場

 禅宗のお寺では東司(とうす:トイレのこと)、浴司(よくす:お風呂のこと)、坐禅堂の三つは三黙道場(さんもくどうじょう)と言って人と話をしてはいけない場所とされています。
家族経営的な一般寺院ではなかなかその通りには出来ませんが、本山などの修行道場では入門するとすぐに教えられる大切なことです。
ちなみに坐禅堂は、坐禅をするだけでなく、食事をする場所でもあり、寝る場所でもあります。
つまり、禅寺においては生活の基本的なことをする場所での他人との会話は禁止されているということ。
行住坐臥すべてが修行だということを徹底させるためにこの三黙道場という決まりはあるのだと思います。
振り返って、現在の自分の日常はどうかといえば、家族と共に生活していれば当たり前ではありますが、お寺だから黙って食べるということはなく、普通に話をしながら食べています。
トイレはさすがに1人ですが、お風呂も子供と入れば賑やかなものです。
ただ、食事の時にテレビをつけるのだけは禁止しています。
やはり食事をする時は食事をすることを大切にするべきだと思うからです。
特にテレビという視覚を必要とするものがその場にあると、あまりに気を取られすぎて「食べる」事がおろそかになってしまいます。
人間は基本的に一度に一つのことにしか集中できません。
テレビを見ながらご飯を食べたりメールをしたり、携帯プレーヤーで音楽を聴きながら雑誌を読んだり。
あまりそういう事ばかりしていると集中力に欠けた人間になってしまうように感じます。
基本的に何かをする時はそのことだけに集中する。
禅の修行を離れてもこれは生活の中で大切なことだと思います。
様々なメディアにあふれた現在の私達の生活。
あれもこれもと気を取られていると自分がどこかへ行ってしまいます。
あれもこれもではなく、あれかこれか。
人生の判断は瞬間瞬間の連続です。
ひと時ひと時を大切に日々をお過ごし頂きたいと思います。

 フワフワと色んなことに気を取られていると、自分自身もいつの間にか現実の向こう側に行ってしまうかもしれません。
ご用心、ご用心。
住職記

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