心にもとづき

 今回取り上げたのは、岩波文庫の中村元訳「ブッダの真理のことば 感興のことば」の冒頭に出てくる言葉です。
繰り返しになる部分を省略してあり、元の文章は以下のようになっています。

「ものごとは、心にもとづき、心を主とし、心によって作り出される。
もしも汚れた心で話したり行なったりするならば、苦しみはその人につき従う。車を引く牛の足跡に車輪がついて行くように。
ものごとは、心にもとづき、心を主とし、心によって作り出される。
もしも清らかな心で話したり行なったりするならば、福楽はその人につき従う。影がそのからだから離れないように。」

この「ブッダの真理のことば 感興のことば」は、ブッダ最初期の言説を伝えていると言われるダンマパダとウダーナヴァルガという経典を日本語訳したもので、仏教を学ぶものにとって大変基本的なものです。
たくさんの短いフレーズからなっていて、大変読みやすくどこからでも読めますし、どこから読んでも何かしらハッとさせられ得るところがあると思います。
また、吟詠的といいますか、もともとが言葉を口で覚えて唱えるように作られているので非常にテンポが良く気持ちよく読めてしまいます。
さて、今回取り上げました言葉は、
――ものごとは、心によって作り出される。
汚れた心でなされる行いは人に苦しみをもたらし、
きれいな心でなされる行いは人に福楽をもたらす。――
という内容です。
人の行いへの非常に簡潔な指摘なのですが、リフレインのテンポの良さも相まってスッと心に入ってくる感じがします。
汚れた心が苦しみをもたらし、きれいな心が福楽をもたらす。
であるならば、心をきれいにして福楽を得たい…自然にそう思わせてくれます。
仏教の教えの大切なところは結構単純です。
人として為すべき単純なことを、毎日心掛けて丁寧に積み上げていく。
そのきれいな心による行いの積み上げが自然に私達を福楽へと導いてくれます。

また、暑い夏がやって来ました。
暑いとどうしても心も行いもだらけてしまいがちですが、大切なところは外さずに、きれいな心できれいな行いを一つずつ積み上げていきましょう。
住職記

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