喜心、老心、大心

 本年一月、大本山永平寺の禅師がお亡くなりになりました。
お歳は108才、大変な長寿であり、また昨年秋までは通常通り法務をおつとめになっていた大変お元気な方でした。
この禅師が、本年永平寺で行われる永平寺三世の七〇〇回忌にあたり標語として選ばれたのがこの「喜心、老心、大心」あわせて三心といわれる言葉です。

 曹洞宗の開祖道元禅師は修行する際の食事を大変重視しておられました。
食事は人が生きていくのに欠かせないもの。
当然修行の中でも大切なことです。
中でも特に食事を作る側の心得について道元禅師は「典座教訓(てんぞきょうくん)」という著書の中で事細かに説かれています。
「喜心、老心、大心」の三心は、この典座教訓のなかで、多くの修行僧に食事を作る食事係の心得として示されたものです。
以下に順に説明してまいります。

 「喜心」
料理を含め人のために何かをする際、嫌々していると、結果もあまり良くありませんし、場合によってはマイナスの結果となることもあります。
そして、その行為をするほうも、されるほうも、共に嫌な思いを残すことが多いと思います。
一方、人の喜びを自分の喜びとして人の為になる行いを喜んでする心、いわゆる奉仕の心をもって為される行いは、する方もされる方も、ともに気持ちよくその行為をし、また受け取ることが出来ます。
この奉仕の心が喜心。
喜心によって、自己の喜びが他人にも伝播し、周囲の人達に喜びの輪が拡がっていきます。
 「老心」
親が子を思うように他の人を思いやる心。
親が子を心配する際、ちょっと考えすぎではと思えるほど細かいところまで気をもんで心配しますが、それと同じように他の人に対しても充分すぎるほど充分に、いわゆる老婆心と言われるほど細かいところまで気配りをする。これが老心。
つまり懇切丁寧な”思いやり”です。
 「大心」
字のとおり大きな心ということ。
山のごとく、空のごとく、海のごとく大きくゆったりとして、もの事をありのままに見つめるこだわりの無い心が大心。
言葉を換えて言えば、常にニュートラルで臨機応変な公平な心ということかと思います。

 以上が喜心、老心、大心という道元禅師が説かれた料理を作る者が持つべき三つの心です。
そして、この三つの心は料理を作る者のみならず、広く一般に人のために何かをする際に心がけるべき心得として普遍的に通用します。
この喜心、老心、大心、普段の生活の中でぜひ大切にしていきたいものです。
住職合掌

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