他はこれ吾にあらず 更に何れの時をか待たん

「他はこれ吾にあらず 更に何れの時をか待たん」
読みは「たはこれわれにあらず さらにいずれのときをかまたん」
この言葉は道元禅師の書かれた「典座教訓」という本の中に出てまいります。

若き日の道元禅師が中国の禅寺で修行中のこと、ある暑い日、一人の食事係【禅寺では典座(テンゾ)といいます】の老僧が庭でキノコを干していました。
背中は曲がり、眉は真っ白です。
道元禅師は、あまりに大変そうなので、誰かに手伝わせてはいかがか?と話しかけました。
それに対し老僧は「他はこれ吾にあらず」と答えます。
道元禅師は更に、ではこんな暑い時ではなく、もう少し涼しい時に仕事をされては?と言います。
老僧の答えは、「更に何れの時をか待たん」というものでした。
この言葉を聞き、道元禅師は修行の何たるかを悟る事が出来たとのこと。

自分に任された役割を他の者にさせてしまっては、それは自分の修行ではない。
今やるべき事は今やらなければいけない。人生の時間は刻一刻と過ぎ去っていく。繰り延べしている余裕はない。
「他はこれ吾にあらず 更に何れの時をか待たん」という老僧のこの言葉は、禅の心、禅の修行の何たるかをまことに端的に表しています。

人生の「時」は休むことなく常に流れ続けています。
大変なことは人任せ、面倒はいつでも後回し。
これでは、へっぴり腰で時の流れに引きずられていくようなもの。
いやいや引きずられているうちに人生の終点にたどり着いてしまいます。
「他はこれ吾にあらず」、人生の主人公は自分自身です。
自分でやったこと、やらなかったこと、全ての結果は自分に返ってきます。
逃げずに前を向き 、「更に何れの時をか待たん」の気持ちをもって、時を大切に、人生を大切に生きたいものです。
住職合掌

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