大掃除

 福井県の永平寺(曹洞宗の大本山)に観光で行ってこられた方から、「廊下がピッカピカで毎日よく掃除をされているのですね。感心致しました。」という話を良く聞きます。
私も永平寺で修行をしたのですが、たしかに毎朝修行僧全員で隅の隅まで雑巾がけをして綺麗にしています。
廊下だけに限らず、屋内外全てを掃除し綺麗にしておくことは曹洞宗においては、特に大切な修行です。
掃除をすると言うことは、自分の心も綺麗にするということです。
掃除という行いによって、自然と心の中も綺麗になる。
これがつまり「修行」、行を修めるということ。
曹洞宗の修行は先ず形から入ります。
たとえば坐禅。
坐禅をするにあたって無の心境になれ−−などとは一切言われません。
ただ、背筋をまっすぐに、静かに呼吸をして手のひらで綺麗に印を結ぶ。
作法だけが指導されます。
坐禅において大切なことは、形を整えるということ。
形を整えれば、心も自然と整う。
曹洞宗の基本的な精神です。

よく、内容があれば外見などどうでもいい−という考え方がありますが、曹洞宗の精神はそれとは全く逆。
中身はひとまずおいておいて、まず形から、行いを正すことから入ります。
正しい形と行いが、正しい心と心の働きを導いてくれる。
頭の中であれやこれや考えず、坐禅や掃除など行住坐臥のすべてにわたり、作法に自らをゆだねてしまう。
そこに仏道があり、曹洞宗の本来の面目があります。

季節は師走。
人間の世界も忙しいですが、自然界でも着実に冬支度が進んでいます。
見事な紅葉から落ち葉の季節。
紅葉は綺麗ですが、落ち葉の掃除は大変です。
掃いても掃いても次から次へとひらりひらり。
一通り掃き終わったかなと思うと、もう一枚二枚掃いたはずの所へ落ちています。
なにやら空しい気もしますが、掃除とは本来そういうもの。
時の流れとともに、ホコリは積もり、枯れ葉は落ちます。
同じように、人の心も日々掃除をしていないといつの間にか汚れがたまり、曇ってきてしまいます。
生きている限り、周りを綺麗にし、心を綺麗にし続けていかなければなりません。
まずは一年が終わろうとしているこの季節、大掃除をして一年の間にたまった汚れを綺麗に落とし、新鮮な気持ちで新たな年をお迎え致しましょう。
住職記

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