幸せの国

 ブータンは、インドと中国に挟まれたチベット仏教を国教とする小さな王国。
人口は約70万人とのこと。
国民総生産(GNP)ではなく、国民総幸福度(GNH)の向上を目指すという国の目標は、先月来日された若き国王のお父上、前国王が考えたものとのことです。
その前国王夫妻を取材したドキュメンタリー映像を以前テレビで見たことがあるのですが、確か朝食は穀物を粉にした物を匙ですくって食べておられ、その他生活も非常に質素に感じられたのを憶えています。
お二人とも、穏やかで優しい人柄という印象でした。
この前国王の元、民主化が進められたのですが、これは国王が進んで行った改革で、国民からは「民主化などはいらない、王様の統治の元で私達は暮らしたい」という声が大変強く、それを説得するのが大変だったとのこと。
何とも微笑ましいエピソードです。
ある意味自分の存在を否定することも出来る民主化を王様自身が進め、国民は自分達が政治の主導権を握れる民主化を嫌い、王政の存続を願う。
王様の政治が行き届いているがゆえなのでしょうが、なにかユートピアとはこんな国なのかもしれないなとも思ってしまいます。

今回訪日された若き国王が日本の国会で演説をされ、ニュースでその様子を放映していました。
「今回の地震による大災害にあたり、ブータンの国民は各地の寺院で日本の人々への慰めの気持ちを込めて祈りを捧げています。」
演説の中での国王の言葉です。
ブータンからも義援金を頂いています。
その額は日本にしてみれば少ない額かもしれません。
しかし、この「国民が日本の人々のために祈りを捧げています」という国王の言葉は、お金以上に非常に価値のあるメッセージを私達に伝えてくれています。
人はパンのみにて生きるにあらず―とは、キリスト教の聖書の言葉ですが、この言葉は宗教を超え普遍的な真実です。
物だけでは、人は幸せになれない。
心を大切に、思い思われる人と人との心の結びつきを大切にする。
他の国の苦難にあった人のために祈るブータンの人々の心の姿、何か忘れていた遠い昔の日本を見るような気がします。

振り返って日本の現況はというと、世界的な金融危機の中での円高、貿易自由化の問題、1000兆円の財政赤字、少子化、多すぎる議員、行政の無駄を削減しようとしても保身のためにあの手この手で逃げ回る官僚。
日本の未来を考えると、暗澹たる気持ちになってしまいます。
年末に、NHKのドラマ「坂の上の雲」が再開されます。
明治期、坂の上の雲を目指して政治家も官僚も庶民も一丸となっていた時代。
時が過ぎ、今はその坂の上の雲の中に日本はいます。
雲の中、霧の中で自分はどこにいるのか、どちらに進んだらいいのか、誰の言っていることが正しいのか、何もかも五里霧中という状況です。
難しい時代ですが、目先の利益にとらわれず、人と人との繋がりを大切にし、情報を共有し、霧の中での自分たちの位置を確認しながら少しずつでも良い方向に進んで行かなければなりません。

そして、物よりも心を大切にする仏教国ブータン。
地球規模で拡がる資本主義市場経済の渦に巻き込まれずに、賢き国王の元、しっかりと国の進むべき方向を見定め、豊かな心の国であり続けて欲しいと思います。
住職記

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