人の間で

 人間は忘れやすい生き物です。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」といいますが、自分にあまり関係のないことはどんなに大きな事でもやはり人は時と共に速やかに忘れていきます。
昨年の3月11日に起こった東日本大震災も、まだ遺体の捜索も終了していないですし、津波で大きな被害を受けた地域は復興どころか未だ手つかずに近い状態の所も多くあります。
しかし、時と共に報道される機会も少なくなり、人々の関心は少しずつ離れていきます。
勿論、原発事故は東日本あるいは日本全体が関わる問題ですから報道でも引き続き取り上げられていますし、今後もそうでしょう。
それに比べて、津波の被害を受けた地域に関しては報道される頻度が少しずつ減ってきているように感じます。
世の中の流れとしてこれはある程度仕方のないことかも知れません。
しかし、今この瞬間も、苦しい状況の中で懸命に生きている人々が被災地にはいます。
津波による壊滅的な被害と、それに追い打ちを掛けるように現地の主要産業である漁業とその関連する産業を圧迫する放射能汚染。
慣れない仮設住宅での暮らし。
学校の友達と離ればなれになってしまった子供達。
今後の仕事、収入への不安。

人間は忘れやすい生き物ですが、同時に一方で想像力という強い力を持っています。
この想像力から、「思いやり」が生まれてきます。
あの津波で全てが流されてしまった町を再建しようと歯をくいしばって頑張っている人達の姿を目を閉じて想像してみて下さい。
頭の中に浮かぶ映像は人それぞれだと思いますが、その映像に伴って、被災地の人に何か力になってあげられないかなという気持ちが自然と心の中に生じて来るのではないでしょうか?
これが、「思いやり」です。
人間が「人間」という字のとおり社会的動物であるがゆえ生まれつき持っている特性です。
人は社会的動物であるがゆえ、戦争という悲しい集団殺人もしてしまいますが、遠くの地で困難な状況に直面している人達を思い、それが見知らぬ人でも助けてあげたいという思いやりの心をも持っています。
悪いことはせず。
つとめて良いことを行う。
仏の道の基本です。
どうか、自らが持っている尊い性質である「思いやり」の心を大切にして頂きたいと思います。
そしてその気持ちを、形にして、或いは行動にして、あの大地震の被災地の人々に届けてあげて下さい。
被害が甚大であったため、まだまだ支援が必要と思います。
住職記

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