因果の道理、歴然として私なし

 「因果の道理、歴然として私なし」(読み…いんがのどうり、れきねんとしてわたくしなし)
この言葉は、曹洞宗の宗祖道元禅師の言葉を集めて作られた修証義というお経に出てくる言葉です。
 因果(いんが)というと「…とは因果な話だ…」的に嫌な原因と結果の繋がりを表す言葉として使われることが今は多いと思います。
しかし、本来の仏教用語としては単純に原因と結果という意味であり、その背景には良くも悪くもこの世の中は原因と結果の連鎖によって成り立っているという仏教の根本理念があります。

以下は、七仏通戒偈(しちぶつつうかいげ)という古来禅宗で大切にされてきた偈(げ:短い句)です。

諸悪莫作(しょあくまくさ) ― もろもろの悪をなすことなく
衆善奉行(しゅぜんぶぎょう) ― もろもろの善を行い
自浄其意(じじょうごい) ― 自らの意(こころ)を浄くする
是諸仏教(ぜしょぶっきょう) ― これがもろもろの仏の教えなり

仏教に絶対者はいません。
仏は天上にいるのではなく、私達と同じこの地平にいます。
大きな輝きを放ち、私達を導く存在ですが、私達もいつかはそこまで到達できる、或いはその可能性がある、そのような存在が「仏」です。
その仏に到るための方法、それがこの「諸悪莫作・衆善奉行・自浄其意・是諸仏教」という言葉に凝縮されています。
悪いことをせず、良いことをせよ、そのようにして自ら心を浄くせよ。
仏教には様々な戒律(戒めやきまり)がありますが、つきつめるとこの言葉に全て帰着するように思います。
悪いことをすれば、心が汚れ、良いことをすれば心が綺麗になる。
当たり前のことです。
そして、これは因(原因)と果(結果)、つまり因果です。
悪い因を除き、良い因を作る、そのようにして悪い果を防ぎ、良い果を得る。
因果によって苦しみが生まれ。
因果によって、苦しみを無くす。
仏教の根本です。

悪いことをするな、良いことをせよ。
簡単なことです。
しかし、現実の生活の中で不断に行い続けていくのはなかなかに困難です。
困難であっても、それを行い続けよ。
釈尊の説かれた仏の道とはそのようなものです。

暑い夏も終わり、季節は秋。
悪いことをせず、良いことをせよ。
釈尊の言葉を静かに胸に刻んで頂きたいと思います。
住職記

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