心月輪

 ある時、良寛さんが知り合いの家を訪れると、桶屋が大きな鍋のふたを作っていました。
ふたを削り終えた桶屋は、取っ手をつけるために溝を彫ろうとしたのですが、失敗してさけ目が入ってしまいました。 桶屋ががっかりして割ろうとしたので、良寛さんは、それはもったいないとその板をもらい受け、裏に「心月輪」と書いてその家に置いてきたとのこと。
今でも、その家の家宝として保存されています。
良寛さんは、大きな鍋ぶたを見てお月様を連想し、心月輪と言う言葉が自然と出てきたのでしょう。
心月輪−−心、月輪のごとし。と読むことも出来ます。
ネットで「心月輪」を検索するとその鍋ぶたの写真を見ることが出来ます。
誠に自由な、闊達な、屈託のない優しく伸びやかな字です。
見ているだけで、こちらの心も自然とまあるくなって来るような、そんな字です。

古来、月はよく仏様の心に例えられます。
夜空に浮かぶまあるい月が、仏さまのまあるい心に通じていると感じるのは、人間の自然な感情なのでしょう。
まあるい月を見て、人は仏の心を想います。
良寛さんは、捨てられそうになった鍋ぶたを見て、月を想い、人の心と、月と、仏の心をつなぐ言葉をそこに書き付けた。
今、私達は良寛さんのその字が書かれた鍋ぶたを見て、良寛さんの自由で優しくまあるい心を感じ、月と仏の心を想います。

10月の夜空はよく澄み、お月見にはよい季節だと思います。
月の綺麗な夜、たまにはテレビを消して家族で外へ出て、しばらく空に浮かぶお月様のまあるい姿を眺めてみるのも良いのではないでしょうか。
お月様の物言わぬ静かな輝きが、見る者の心を綺麗にしてくれるように思います。
住職記

今月の言葉に戻る