身命は露よりも脆し

 「身命は露よりも脆し、何れの善巧方便ありてか、過ぎにし一日を復び還し得たる」
 ※善巧方便(ぜんぎょうほうべん)=巧い工夫や方法
この言葉は、曹洞宗独自の経典である修証義の中に出てきます。
修証義は、曹洞宗の開祖である道元禅師の遺された言葉から作られています。
「身命は露よりも脆し」…道元禅師の生きられた時代、人の命の儚さは今よりもずっと切実に感じられたことと思います。
野の風に揺れる草の先の露よりも、さらに儚いのが人の命だと言われています。
生まれたものは、必ず死ぬ。
誰でも知っていることです。
しかし、健康な時は誰も自分の死を人生の予定表に入れることはしません。
自分が死ぬことなど誰も考えたくありません。
自分がいつ死ぬか分からないからこそ、私達は平穏に毎日を送ることが出来ます。
でも、いつか終わりが来る。
そして、刻々と過ぎ去っていく時間は、どんな巧い工夫をしても取り戻すことが出来ない。
私達に与えられた時間の大切さを、簡潔な言葉で道元禅師は指摘しています。

今年も、もうすぐ終わり。
私個人としては、ガサゴソあたふたしている内に、また師走になってしまったなという感覚です。
そうやって人は年を取っていくものなのかも知れませんが、自分の持ち時間がそれだけ減っていくということでもあります。
今年流行った言葉に「今でしょ」というのがありますが、人生何かやろうと思うなら「今でしょ」というのは、まさに至言です。
そのうちに…と思っていると、多分「そのうち」はずっと「そのうち」のままです。
時は刻々と過ぎ去って行き、二度と戻ってくることはありません。
除夜の鐘までに、何かまだ出来ることはないか?
時を大切に、人生を大切に生きなければと思います。
住職記

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