白い象の夢−花まつり

 日本では、4月8日にお釈迦様の生誕をお祝いして花御堂(はなみどう)という、花で飾られたお堂にお釈迦様の小さなお像をお祭りし、そのお像に甘茶という甘いお茶をかける「花まつり」という行事を行います。
その昔、お釈迦様がルンビニーという花園でお生まれになり、天の竜神がその生誕を祝って甘い雨を降らせたという言い伝えにちなんで古くから日本で行われている行事です。
白い象の摩耶夫人懐妊の話といい、釈尊誕生にまつわる伝承は現代の私達の感覚からすると非常に非現実的な話が多いのですが、それだけ尊い存在だということを表そうとした昔の人々の気持ちがそこに表れていると私は思います。
ちなみに、お釈迦様はお母様の摩耶夫人の右脇の下から生まれたと伝えられています。
ファンタジーともいえる伝承に包まれた釈尊の誕生。
しかしそのファンタジーに包まれて生まれた釈尊が説いた教えは、生と死という生命の現実を直視せよという非常に現実的な教えでした。
ファンタジーは人間が作り出すものですが、ファンタジーではなく人間そのものを凝視せよ、釈尊はそう説きました。
ファンタジーは世につれ、人につれ変わってゆきます。
しかし、生まれ、老い、病を得、死んでゆく人間の現実は昔も今も何も変わることはありません。
であるがゆえ、様々なファンタジーに包まれながら、仏教という教えが世界に拡がり、今に伝えられているのだと思います。

ところで、花まつりでお釈迦様にかける甘茶(あまちゃ)、お茶に砂糖を入れて作るわけではなく、アマチャヅルという植物の乾燥させた葉や茎を煎じて作ります。
実はこれは漢方薬で、漢方薬屋さんに行くとそのまま「甘茶」として販売されています。
煮出すと、見た目は紅茶のような色で、飲むとほんのりと甘く、結構美味しいと言って良い味です。
漢方薬ならば、その効能はというと…血圧を下げ、血糖値を下げ、さらにストレス解消にも良いという、まさに現代の我々にピッタリ。
時を超え、ファンタジーの中にも現実的な救いの手を差し伸べてくださるお釈迦様、さすがです。
ストレスから解放され、健康になりたい方は、4月8日に近くのお寺に行って花御堂のお釈迦様に甘茶をかけ、お詣りに来た方にお分けするように用意されている甘茶を頂いて飲んでみて下さい。
きっと、ほんのり甘い香りと共に、心と体から邪気がスーッと抜けていくことと思います。
住職記

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