他心通

 仏には六つの特殊な能力があると昔のお経に書かれています。
「他心通」もその中の一つ。
他の心に通じる。つまり、他人の心が分かると言う能力。
人は誰でも、他人の考えていること感じていることがある程度分かります。
自分だったらどうだろうという想像が心の中で自然に働くからでしょう。
しかし、人はそれぞれ少しずつ感じ方や感性が違います。
であるがゆえ、他人の心や気持ちが分かると言っても限度があり、場合によっては分かったつもりでいてもまるで見当違いの時もあります。

仏の「他心通」は、この普通の人間の能力の延長線上にあると私は思います。
自分自身と対峙し、自分と自分を取り巻く世界全体が一つのものであることを身をもって感得し得た時、自分という「個」が、自分を取り巻く周囲・世界全体の感覚と融合し一つになってゆく。
そんな境地に到った時、自分のことも他人のことも同じようにその心の動きを感じることが出来るようになる。
つまりこれが、「他心通」と言うことなのではないかと私は思います。
禅の究極の境地は自他の別を超えた所にあります。
自他の別を超えると言うことは、自も他も一緒、同じと言うこと。
「他心通」と言っても、「自心通」と言ってもつまりは同じこと。
「他心通」と「自心通」が同じ意味を持つ世界が仏の世界であり、禅の究極の姿です。
住職記

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