他人の過失を見るなかれ

 他人の過失を見るなかれ。
 他人のしたこととしなかったことを見るな。
 ただ自分のしたこととしなかったことだけを見よ。

 この言葉は、ダンマパダとウダーナヴァルガという釈迦直説の言葉を集めた経典を中村元先生が訳された岩波文庫『ブッダの真理のことば 感興のことば』という本の中に出てきます。
この本は、短い二行か三行くらいのブッダの言葉が内容によって分けられて並べて書かれているものなのですが、短い詩句の中に人生への鋭く深い洞察を感じる言葉がたくさん出て参ります。
この中で語られる釈尊自身の言葉は、おしなべて、世の中に対して或いは他人に対して〜せよ。というような外へ向かう思考よりも、ある事柄に対して自分自身がどう対処していくのかというような非常に内省的なものが多いように思います。
今回取り上げた言葉もその中の一つ。
意味としては、
「他人の過失をあげつらうな。人がどうしたこうしたではなく、自分がどう生きているのか、行動しているのか、それが大切だ。」
ということだと思います。
人生の時は刻々と過ぎ去っています。
今、この文章を読んでいるあなた自身も、あすは火葬場の煙になっているかもしれないのが無常であるこの世の現実です。
人がどう生きているか批評する時間があるなら、自らを省み、なすべき事をなし、なさぬべきことはなさぬよう更に精進をせよ。
釈尊の言っていることは、二千数百年の時を超えて読むものの心に刺さってきます。
法句経として知られるダンマパダなどの初期仏教経典には、仏教という枠組みを離れても通用する人生への鋭く深い洞察に富んだ言葉がたくさん出て参ります。

 さて、そろそろ季節は春が過ぎ夏の手前の梅雨。
じめじめとして嫌な季節ですが、植物にとっては恵みの季節、田植えの季節でもあります。
雨も降るべきときには降ってもらわないと世の中うまくいきません。
雨の降る休日は、たまにはテレビやスマホやネットから離れて、静かに本を読み、先人の知恵に触れてみてはいかがでしょう。
心に水をあげる良い機会になるかもしれません。
住職記

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