ゆさゆさと大枝ゆるる桜かな

 春の初め、枯れているかのような枝から微かな蕾を見せ、あっという間に枝いっぱいの花を咲かせる桜。
ちらちらと花びらが舞い落ちる満開の桜の木の下にいると、なにか自然の中にある生命の力に祝福されているような気分になります。
桜を含め落葉樹は皆、夏に葉を茂らせ、秋に落葉し、また春になると芽吹いてくるというサイクルを繰り返しているわけですが、この桜という木は花を咲かせて散るまでの期間が非常に短くまた美しいために人の心を動かすのでしょう。
この冬が暖冬だったので、今年は桜が咲くのがかなり早くなるかなと思っていたのですが、二月終わりから三月中頃にかけて多少寒さが戻って来たせいか、結局例年より少し早い位の三月の終わり頃お寺の庭の桜(ソメイヨシノ)は満開になりました。
今、日本も世界もコロナウイルスの感染爆発で大変なことになっていますが、桜の木にはそんなことは何も関係ありません。去年と同じように薄紅色の美しい花をいっぱいに開いてこれでもかと咲き誇っています。
そして、お寺の境内にある保育園の子ども達もコロナウイルスなどまるで関係なしに満開の桜の木の下を歓声を上げながら駆け回って遊んでいます。
桜の木は花をいっぱいに咲かせ、子ども達はその下でめいっぱい遊び回る。
自然と言えば誠に自然であり、見ている方も見ているだけで元気になるような光景です。

今月の言葉の冒頭に掲げた句『ゆさゆさと大枝ゆるる桜かな』は、高崎にゆかりの深い俳人村上鬼城の詠んだ句です。
ゆさゆさと、という表現からなんとなく八重桜を詠んだ句かなとも思えますが、いずれにしろ自然の力(生命力)を感じさせる句です。
四月から新しい年度が始まります。
もしかしたら、また外出自粛なんてことになる可能性もありますが、家にいるからこそ出来るということも何かあるかもしれません。
かのニュートンは大学がペストで閉鎖され実家に戻っている間に、リンゴの木からリンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を思いついたのだそうです。
人間万事塞翁が馬。何がどのような結果をもたらすかは我々には分かりません。
今の状況を悲観するのではなく、今の状況で何が出来るか?何をするべきか?
自分なりに考えて自分なりに行動して参りましょう。

住職記

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