大丈夫、心配するな、なんとかなる

 10月の今月の言葉では唯識の考え方を紹介しましたが、そのつながりで、有名な禅僧である一休さんの「大丈夫、心配するな、なんとかなる」という弟子達に遺した言葉について書いてみたいと思います。

とんち話で有名な一休さんは室町時代のお坊さんで、八十七歳という当時としてはずいぶん長生きな方だったのですが、亡くなる直前に「この先、どうしても困ったときに開けなさい。それまでは絶対に開けないように」と言って弟子達に一通の手紙を残されたそうです。
そうして一休さんが亡くなって数年後、お寺に大変困った問題が起き弟子たちが困り果てた時、その手紙のことを思い出して手紙を開けてみると、中には「大丈夫、心配するな、なんとかなる」とだけ書かれていたとのこと。
人を食った言動で有名な一休さんらしいエピソードですが、おそらく弟子達はこの言葉を見て緊張の糸が切れ、気持ちが素に戻り、難しい問題にも平常心で立ち向かっていくことが出来たのではと思います。
人間生きていると本当に色々なことが起こります。
嫌なことが続いたり、どうにも解決できそうもない問題が起こったり、想定外のことに巻き込まれたり、人生の道中で起こってくる問題は誠に様々です。
体が丈夫でも、精神的にタフでも、大変なことが続くとつい挫けそうになってしまったりします。
そんな時にこの「大丈夫、心配するな、なんとかなる」と言う言葉に接すると、なにか心の重荷が背中から転がり落ちて体が軽くなり、何とはなしに自然体になり、まあぼちぼちやっていくかという気持ちになれるように感じます。
何事も気の持ちようと言われますが、正にその通りで自分の周りの状況は別に何も変わらなくとも、心の状態や考え方次第で本人の感じる大変さ加減が本当にまるで違ってしまいます。
自分を取り巻く環境がどのようなものであるのかを決めているのは実は自分自身です。
私達自身がこの世界の著者であり主人公です。
私(達)以外にこの世界がこのようなものであると決めている存在はありません。
この世界は私(達)が五感によって認識しているから存在するのであり、私(達)が死ねば世界も消えて無くなります。(というのが唯識の考え方です。)
気持ち良く晴れて穏やかな日でも、主人公の心の中が灰色なら世界は灰色の世界であり、どんなに暴風雨の嵐の日でも、主人公の心の中がバラ色なら世界はバラ色です。
私達自身の心がこの世界の有り様を決めています。
全然大丈夫そうに見えない現実でも、私達自身が大丈夫と思えるのなら大丈夫であり、
心配だらけのように見えても、私達自身が心配ないと思えるのなら心配ないのであり、
なんともならないように見えても、私達自身がなんとかなると思えるのならなんとかなるのです。
ですので、一休さんの言うように事に当たって「大丈夫、なんとかなる」と思えるのであれば本当に”なんとかなる”のです。
人の心の力は誠に不思議であり、偉大です。
住職記

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