怒りを捨てよ

 「怒りを捨てよ。慢心を除き去れ。いかなる束縛をも超越せよ。名称と形態とにこだわらず、無一物となった者は、苦悩に追われることがない。」
この言葉は、ダンマパダというほぼ最古の経典と言われるブッダ直説の言葉を集めた句集の中に出てくる言葉です。
この句集の中でブッダは、自らの説こうとすること…煩悩から解脱する方法…を私達に非常に分かりやすく、これこれこういうことをしなさい。あるいはこういうことをしてはいけない。と日常的な言葉で語りかけて来ます。
この今回取り上げた言葉も執着を離れよという仏教の基本的な教えを説いたものだと思いますが、より具体的であり直接的であり人の心を動かそうとする力を感じる言葉です。

今、東ヨーロッパで国同士の戦争という、もう大規模に起こることはないだろうと思われてきた事態が現実のものになってしまっています。
どこの国でも一般人で戦争をしたいと思う人はまずいません。
一部の国の指導者が自己の欲望…まさに執着そのもの…を満足させるために軍備を増強したり戦争を始めたりします。
そして死んでゆくのは名もない一般の人々。
一人の人間の死は、何人もの人間に悲しみをもたらし、多くの怨みをもたらし、復讐へと続く怒りを生み出します。
戦争は、未来の戦争の種となり、また戦争を引き起こし、どこまでも続いてゆきます。
どこかで怒りを捨て去らなければこの連鎖を止めることは出来ません。

今回この戦争を始め、自国の兵士も戦争をやめたがっているのにいまだ戦争をやめようとしない某大国の指導者の心の中は、怒りと猜疑心と慢心で満ちあふれているように感じます。
怒りを捨てよ。慢心を除き去れ。という遠い過去に発せられたブッダの言葉は、まさに今あの指導者にこそ必要だと思われます。

日本では今桜が満開ですが、遠い東ヨーロッパの地で多くの血が流れ、そして悲しみと苦しみの涙が止めどなく流れていることを思うと、花冷えの桜がさらに寒々と感じられます。
どうか戦争が早く終わりますように。
合掌

住職記

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