己が身にひきくらべて

 今月の言葉として掲げた法句経(ダンマパダ)の言葉は以下のようにもう一つの前の句と対になっています。

「すべての者は暴力におびえ、すべての者は死をおそれる。己が身をひきくらべて、殺してはならぬ、殺さしめてはならぬ。」
「すべての者は暴力におびえる。すべての(生きもの)にとって生命は愛(いと)しい。己が身にひきくらべて、殺してはならぬ。殺さしめてはならぬ。」
◆岩波文庫『ブッダの真理のことば 感興のことば』中村元訳より

お釈迦様が生きた時代も国と国の戦争が絶えない時代でした。
お釈迦様が生まれた国もお釈迦様存命中に他国に滅ぼされています。
多くの人々が戦いの中で死んでいったことでしょう。
であるがゆえに「殺してはならぬ。殺さしめてはならぬ。」という言葉になっているように感じます。
今、お釈迦様の時代からみると想像もできないほどに科学技術が進み、人が空を飛び、空を超えて宇宙にまで行き、何万人という人を一瞬にして殺すことのできる爆弾を作り、果ては人間の代わりに考える機械まで作り出しています。
しかし、どんなに科学や技術が進んでも人間の心は2500年前のお釈迦様の時代と何も変わっていません。
相変わらず国と国で反目しあい疑心暗鬼の末に戦争をし、その戦争がさらに続く戦争の種となっていつまでも戦争が続いていく。
そんな状態がずーっと続いています。
最近の世界の様子を見ていると本当に見事なまでに人間の心というのは進歩がないのだなとつくづく感じます。
人の心が変わらないがゆえ、その心のあるべきようを説いているお釈迦様の言葉も2500年の時を超えて直に私たちの心に響きます。
自分が殺されたら嫌なのだから、他者も同様である。ゆえに他人を殺してはいけないというお釈迦様の言葉は人間社会にとって変わることのない普遍的な道徳律と言えるでしょう。
十重禁戒という仏教徒が守るべき十の大切な戒めがありますが、その第一番目は不殺生戒。
生き物を殺してはならないという戒めです。
私たち人間は、他者の気持ちを思いやることのできる存在です。
今世界は無力感を感じる弱肉強食の世の中ではありますが、そんな世の中であればこそ、他者を思いやる不殺の戒めは心に深く刻み込んでいなければならないように思います。
住職記

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